骨董コラム:高麗青磁の翡色(ひしょく)とは|なぜ世界が認める美しさなのか
2026.06.20
高麗青磁を語るとき、必ず登場する言葉があります。「翡色(ひしょく)」です。中国の青磁とも日本の青磁とも異なる、高麗時代の朝鮮半島でのみ実現された独特の青緑色は、当時から「天下第一」と称えられ、現代においても世界中のコレクター・美術館から特別な評価を受けています。本稿では翡色とは何か、なぜそれほどまでに高く評価されるのか、その秘密を解説します。
翡色とは、高麗時代(918〜1392年)に朝鮮半島で焼かれた高麗青磁の釉薬が見せる、独特の青緑色を指す言葉です。「翡」は翡翠(カワセミ、転じて宝石の翡翠)を意味し、その名の通り翡翠の宝石を思わせる深く澄んだ青緑色から、この名が付けられました。この色を最初に「天下第一」と称えたのは、北宋(中国)の使節として高麗を訪れた徐兢(じょきょう)という人物です。彼は著書『宣和奉使高麗図経(せんなほうしこうらいずけい)』の中で、高麗青磁の色を「翡色」と呼び、中国・越州窯の青磁と並び称される、あるいはそれを上回る美しさであると記しました。中国を絶対的な文化の中心と見なしていた当時、中国側の使節がこれほどまでに賞賛したという事実は、高麗青磁の翡色がいかに卓越していたかを物語っています。
翡色という独特の発色が生まれた背景には、複数の技術的要因が重なっています。第一に、釉薬に含まれる微量の鉄分の存在です。青磁の釉薬は鉄分を含んだ釉薬を高温で還元焼成(かんげんしょうせい:酸素を制限した状態で焼くこと)することで青緑色に発色しますが、鉄分の含有量・釉薬の調合・焼成時の温度と還元状態の組み合わせによって、発色は微妙に変化します。高麗の陶工たちは、この複雑な変数を経験的に制御し、翡色という独自の発色を実現しました。第二に、高麗特有の素地(きじ)の質です。青磁の発色は釉薬だけでなく、その下にある素地の色・質感にも影響を受けます。第三に、釉薬の厚みと透明度の絶妙なバランスです。これらの要因が複雑に絡み合うことで生まれる翡色は、意図的に完全に再現することが極めて難しく、同じ高麗時代の作品であっても、一つひとつ微妙に異なる表情を見せることが、翡色の魅力をさらに高めています。
翡色がなぜ世界中で特別な評価を受けるのか、その理由は複数の側面から説明できます。第一に、希少性です。翡色を完璧に体現した高麗青磁は、高麗時代の限られた期間——特に12世紀の最盛期——に集中して製作されました。この技術は高麗の滅亡とともに徐々に失われ、後の李朝時代には別の様式(白磁中心)へと移行したため、翡色の青磁は時代的にも限られた希少な存在です。第二に、美的完成度の高さです。翡色は単なる「青い色」ではなく、見る角度・光の当たり方によって微妙に表情を変える、深みと透明感を兼ね備えた色彩です。第三に、技術の卓越性に対する評価です。陶磁器の歴史において、特定の時代・特定の地域でしか実現されなかった独自の発色技術は、それ自体が人類の技術史における重要な達成として評価されます。
翡色の青磁を評価する際に確認すべき視点をお伝えします。色調の深みと透明感が最初の確認ポイントです。本物の翡色は、単に緑がかった色というだけでなく、光を通したときに見える奥行きのある透明感を持っています。象嵌(ぞうがん)技法との組み合わせも重要な視点です。高麗青磁には、表面に文様を彫り込み、そこに白土・黒土を埋め込む象嵌技法が施されたものが多くあります。翡色の地に象嵌の文様が美しく映える作品は、技術的にも美的にも高い評価を受けます。形状と用途の整合性も確認材料です。高麗時代の青磁には、茶碗・花瓶・香炉・硯滴(すずりてき)など様々な器形があり、それぞれの時代・用途に応じた形状の特徴を持っています。経年変化の自然さも真贋判定の手がかりです。長い年月を経た本物の高麗青磁には、釉薬の細かいひび(貫入:かんにゅう)や、土中での埋蔵による独特の風合いが見られることがあり、これらは時代の証拠として評価されます。
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翡色は高麗時代の陶工たちが技術と経験を積み重ねて到達した、世界に類を見ない独自の発色です。中国の使節すら賞賛したこの色は、希少性・美的完成度・技術の卓越性という複数の理由から、現代においても世界中のコレクターから特別な評価を受け続けています。えびす屋では高麗青磁をはじめ朝鮮美術全般について、専門知識を踏まえた適正な査定をご提供しております。
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