骨董コラム:醴陵窯(れいりょうよう)の魅力と鑑定|湖南省が生んだ釉下彩の世界

中国陶磁器の世界において、景徳鎮・宜興と並んで近代以降に急速に評価が高まった産地があります。「醴陵窯(れいりょうよう)」——湖南省醴陵市で制作された陶磁器です。特に「釉下彩(ゆうかさい)」と呼ばれる独自の彩色技法で制作された醴陵磁器は、その鮮やかな発色と精緻な絵付けで世界的な評価を受けており、国際オークションでも高い注目を集めています。本稿では醴陵窯とは何か、その特徴・歴史・鑑定のポイントを解説します。

 

醴陵窯は湖南省醴陵市に位置する陶磁器の産地です。醴陵での陶磁器制作の歴史は古くからありますが、現在評価される「醴陵窯」の主要な製品は清代末期から民国期・中華人民共和国成立後にかけて制作されたものを指すことが多く、近現代中国陶磁器の中でも特別な位置を占めています。醴陵窯が世界的に注目されるようになったきっかけの一つが、1915年のパナマ太平洋国際博覧会での金賞受賞です。この受賞が醴陵の釉下彩磁器を世界に知らしめることになり、以後国際的な評価が高まりました。中華人民共和国成立後、醴陵窯は国家主席・毛沢東の食器として使用される「毛磁器(もうじき)」の産地としても知られるようになりました。この「毛磁器」としての来歴が、醴陵窯の特定の製品に対する特別な評価を生み出しています。

 

醴陵窯の魅力を語る上で欠かせないのが「釉下彩(ゆうかさい)」という彩色技法です。釉下彩とは、素焼きの素地に顔料で絵付けを行い、その上から透明釉をかけて高温で焼成する技法です。絵付けが釉薬の下に閉じ込められるため、長期間にわたって色彩が保護され退色しにくいという特性を持っています。醴陵窯は独自の顔料開発によって、従来の釉下彩では難しかった多彩な色の表現を実現しました。特に鮮やかな緑・赤・黄・紫など複数の色を組み合わせた精緻な絵付けは「醴陵釉下五彩(ゆうかごさい)」として知られており、この技法が醴陵窯の最大の特徴となっています。景徳鎮の粉彩・五彩が釉薬の上に絵付けする「釉上彩(ゆうじょうさい)」であるのに対し、醴陵の釉下彩は絵付けが釉薬に守られているため、時間が経っても色彩が鮮明に保たれます。

 

醴陵窯の製品は制作時代によっていくつかの重要なカテゴリーに分けられます。清代末期・光緒年間(1875〜1908年)の醴陵窯は、釉下彩技法が本格的に発展した時期の作品です。民国期(1912〜1949年)の醴陵窯は、1915年のパナマ博覧会受賞後に最盛期を迎えた時期の作品群です。花鳥・山水・人物など豊かな画題が釉下五彩で表現された作品が多く、品質・芸術性ともに高い水準の作品が制作されました。「毛磁器」と呼ばれる中華人民共和国成立後(1950年代以降)に制作された醴陵窯の作品は、国家主席・高級幹部用の食器として制作されたものです。シンプルながら精緻な釉下彩が施されたこの磁器は、来歴の特殊性から独自の評価を受けています。

 

釉下彩の発色と精緻さが最初の確認ポイントです。本物の醴陵釉下五彩は釉薬の下から色彩が透き通って見える独特の深みを持ちます。色が釉薬の表面に乗っているだけのように見える場合は釉上彩の可能性があり、醴陵窯の評価軸とは異なります。絵付けの精緻さも重要な確認ポイントです。醴陵窯の名品は花弁の細部・鳥の羽根の一本一本まで精緻に描かれており、筆致の確かさと図案の完成度が品質を示します。底款(ていかん:器の底部に記された銘)の確認も重要です。清代・民国期・中華人民共和国成立後でそれぞれ底款の様式が異なり、款の書体・印刻の特徴が時代を示す手がかりとなります。毛磁器の場合は来歴の確認が特に重要です。

 

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醴陵窯は湖南省が生んだ釉下彩磁器の産地であり、釉下五彩という独自の技法による鮮やかで精緻な絵付けが世界的な評価を受けています。清代末期・民国期・毛磁器と時代によって異なる評価軸を持つ醴陵窯の作品は、釉下彩の発色・絵付けの精緻さ・底款の確認・来歴の証明が鑑定の核心となります。えびす屋では醴陵窯をはじめ中国美術全般について、時代と技法を踏まえた適正な査定をご提供しております。

 

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この記事を書いた人

田附 時文(たづけ ときふみ)

えびす屋 鑑定顧問 / 美術品査定士

鑑定する田附 時文

著者:田附時文(えびす屋鑑定顧問。東洋美術・書道具の物理的同定を専門とする査定士)

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