骨董コラム:李王家の美術品が高く評価される理由|来歴が価値を変える世界

朝鮮美術・李朝白磁を扱う中で、時折「李王家(りおうけ)旧蔵」「李王家伝来」といった来歴を持つ品物に出会うことがあります。李王家とは朝鮮王朝(李氏朝鮮)の王族を指す名称であり、この家系に由来する美術品は、同種の品物と比べて特別な評価を受けることがあります。「李王家」という言葉が持つ歴史的な重みと、それが骨董品の評価にどう影響するのかを本稿では解説します。

 

李王家とは、1392年から1910年まで朝鮮半島を統治した朝鮮王朝(李氏朝鮮)の王族を指す言葉です。建国者である李成桂(イ・ソンゲ)の家系であることから「李」の姓を持ち、約五百年にわたって朝鮮半島の政治・文化の中心であり続けました。1910年の韓国併合後、朝鮮王朝最後の皇帝・純宗(じゅんそう)をはじめとする王族は「李王」「李王家」という呼称のもとで身分が定められました。この時期に李王家に伝わっていた宝物・美術品の一部は「李王家博物館」(後の国立中央博物館の前身の一つ)に収蔵され、また一部は日本に渡ったものもありました。1938年に開館した李王家美術館(旧徳寿宮石造殿)は、朝鮮王朝の美術品を体系的に保存・展示する施設として大きな役割を果たし、現在の韓国における美術館制度の礎の一つにもなっています。李王家は朝鮮王朝五百年の歴史の中で、白磁・青磁・書画・工芸品など膨大な美術品を蒐集・所有してきました。王室という性質上、これらの品物は当時の最高水準の技術で制作された名品が多く含まれています。歴代の王・王妃が好んだ品の傾向や、外交儀礼に用いられた贈答品なども含め、李王家の蒐集品は朝鮮王朝の文化的水準を映す鏡としての役割も果たしています。

 

李王家にまつわる来歴を持つ美術品が高く評価される理由は複数あります。第一に、王室所蔵品としての品質の高さです。李王家に納められた品物は、宮廷の御用窯——分院(ぶんいん)など——で製作された最高水準の品が中心でした。素材の選定・技術の精度において、一般に流通していた品物とは一線を画す品質を持っています。御用窯では失敗作・規格外品は厳しく排除され、王室に納める品だけが選別される仕組みがあったため、現存する官窯品は均一に高い品質を保っています。第二に、来歴の明確さが持つ価値です。骨董品の世界において「誰が所有していたか」という来歴は評価の重要な要素です。李王家という明確で歴史的にも重要な所有者の存在は、その品物の真贋・品質に対する一定の保証として機能します。第三に、朝鮮王朝という国家の終焉という歴史的背景です。李王家旧蔵品は朝鮮王朝五百年の終わりという大きな歴史的転換点と結びついており、単なる美術品としてだけでなく、歴史的資料としての価値も併せ持っています。

 

李王家との関連が確認される美術品にはいくつかの種類があります。李朝白磁の中でも、分院窯で製作された官窯品(かんようひん:王室・官庁向けに製作された品)は、李王家との関連が深い品物群です。素地の純白さ・形の端正さ・装飾の控えめな上品さが特徴で、一般的な民窯品とは一線を画す品質を持ちます。書画においても、李王家の宮廷で活動した宮廷画家による作品や、王族自身が手がけた書画が存在します。これらは朝鮮王朝の宮廷文化を直接示す資料として、美術的価値に加えて歴史的価値を持ちます。工芸品——螺鈿(らでん)細工・金属工芸・刺繍など——についても、李王家の宮廷で使用された品物は高い技術水準を示すものが多く、骨董市場で特別な評価を受けることがあります。

 

「李王家伝来」「李王家旧蔵」という来歴は品物の評価を大きく押し上げる一方で、こうした権威ある来歴を謳う偽りの主張にも注意が必要です。来歴の根拠となる資料の有無が最初の確認ポイントです。箱書き・添え状・購入時の記録など、その来歴を裏付ける文書資料が存在するかどうかを確認します。品物自体の質と時代が来歴と整合しているかも重要です。流通経路の確認も重要な視点です。韓国併合前後の混乱期において、李王家にまつわる品物がどのような経緯で市場に流出したかという歴史的背景の知識も、来歴の真贋判定に役立ちます。当時の混乱の中で多くの品が散逸し、日本・欧米のコレクターの手に渡った経緯も知られており、こうした歴史的経緯を踏まえた専門知識が真贋判定には不可欠です。

 

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李王家は朝鮮王朝五百年の歴史を体現する家系であり、この家系にまつわる美術品は品質の高さ・来歴の明確さ・歴史的背景という複数の要素から高く評価されることがあります。一方で「李王家伝来」という権威ある来歴ほど、その真贋を慎重に見極める必要があります。えびす屋では李王家にまつわる品物を含む朝鮮美術全般について、来歴と品質を踏まえた適正な査定をご提供しております。

 

この記事を書いた人

田附 時文(たづけ ときふみ)

えびす屋 鑑定顧問 / 美術品査定士

鑑定する田附 時文

著者:田附時文(えびす屋鑑定顧問。東洋美術・書道具の物理的同定を専門とする査定士)

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