骨董コラム:古墨の「黒」が放つ沈黙の熱量――阿佐ヶ谷の書斎で出会う炭素の美学

「時文さん、この割れた古い墨、まだ使えるんですか?」

 

杉並区の阿佐ヶ谷や高円寺、あるいは世田谷区の代沢といった地域の古いお宅を回っていると、墨の香りが染み付いた古い文箱から、ひび割れた黒い塊が出てくることがあります。ご遺族にとっては「使い古しのガラクタ」に見えるかもしれませんが、私たち骨董商にとって、それは「古墨(こぼく)」という、二度と再現不可能な素材の結晶です。

 

墨の価値を決定づけるのは、煤(すす)の粒子の細かさです。特に清代や明治期までの古い墨は、長い年月を経て膠(にかわ)が枯れ、水分が抜けることで、磨った瞬間に「芯のある黒」を放ちます。現代の量産品にはない、紙の深層まで浸透するような鋭い発色。この黒の質を求める書道家たちが世界中にいるため、たとえ割れていても、数万円から十数万円という相場を維持し続けています。

 

こうした古墨の熟成した色沢は、 東京国立博物館 に収蔵されているような名筆の跡にも見られる、東洋の美学の根幹です。杉並を起点に、世田谷、中野、渋谷、目黒、大田、三鷹、調布、狛江。この周辺一帯を日常のフィールドとして歩いていると、こうした時間の熟成を経た名品に出会うことが多々あります。

 

表面を覆う埃の下に、龍や銘が刻まれていれば、それは市場の熱量を一気に変える信号となります。私たちは、その重さと、指先に伝わる炭素の密度から、 墨・紙・拓本 の真実を正確に読み解きます。世田谷、杉並、中野、渋谷、目黒、大田、三鷹、狛江、調布など、その辺り全般に強いえびす屋が、皆様の大切な思い出の品に寄り添い、確かな鑑識眼をもって、その真価を明らかにいたします。

 

この記事を書いた人

田附 志郎(たづけ しろう)

えびす屋 鑑定顧問 / 美術品査定士

鑑定する田附 志郎

実家が骨董屋であり、鑑定の現場に立ち続けて四十年が経ちました。現在は世田谷や杉並といった歴史ある地域を中心に、中野、渋谷、目黒、大田、三鷹、調布、狛江まで足を運び、日々多くの美術品と向き合っています。

一見すれば見過ごされるような古い道具であっても、その奥底に眠る物質としての誠実さを掘り起こす。それが私の誇りです。骨董が辿った数世紀の旅路を、今の時代に通用する確かな価値へと読み解き、皆様から受け取った大切なバトンを、決して途絶えさせることなく次代へと引き継ぐ責任を果たしたいと考えています。

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