骨董コラム:明代「万暦五彩」の物質的解析と、地域遺産としての適正査定

「なぜ、一見して判別不能なほどに汚れた古い品々に、これほどまでの数字がつくのか」

 

荻窪の事務所を出て、青梅街道から環八を南下し、世田谷の成城や大蔵へ。あるいは連雀通りを抜け、三鷹、調布、狛江といった邸宅街の蔵を巡る日々。私が鑑定の現場で対面する 明代の万暦五彩 は、中国陶磁史の中でも極めて特異な熱量を持った磁器です。その魅力は「端正な美」ではなく、むしろ技術的限界点における「物質のせめぎ合い」にあります。これを正確に評価するには、情緒的な感想を排し、釉薬の化学変化や地金の組成といった「物理的な証拠」を、現在の国際市場の座標に照合する実務が必要です。

 

■1. 「万暦五彩」の物質的魅力:鉛釉の劣化と虹彩現象

 

万暦五彩の最大の魅力は、赤、緑、黄、そして下絵付けの呉須(青)が織りなす圧倒的な色彩の密度にあります。万暦年間(1573-1620年)は、明朝の衰退期にあたりますが、陶磁器においては技術的な円熟と、ある種の「粗放さ」が同居しています。

 

鑑定士としての私が最も注視するのは、上絵具に含まれる「鉛釉(なまりゆう)」の変質です。400年という歳月を経て、鉛成分は釉薬の表面に僅かに溶け出し、空気中の水分や酸素と反応することで、ナノレベルの微細な凹凸を形成します。これをルーペで確認すると、本物は色の境界線付近に、見る角度によって真珠のような淡い虹色の光(虹彩現象)を放ちます。これは現代の化学薬品によるエイジング処理では決して再現できない、不可逆的な「時間の堆積」です。

 

世田谷区、杉並区を中心に、中野区、渋谷区、目黒区、大田区、三鷹市、調布市、狛江市といった周辺エリアでは、こうした 中国美術 の逸品が、蔵の奥で息を潜めているケースが少なくありません。私はこの「光の干渉」という物理的根拠を、価格算出の絶対的な基準に据えています。

 

■2. 鑑定士の思考プロセス:なぜ他社より高く買い取れるのか

 

えびす屋が万暦五彩をはじめとする骨董品において、他社を凌ぐ査定額を提示できる理由は、単に知識があるからではありません。「物質の不整合」を科学的に排除し、本物である確証を得た上で、国際的なオークションマーケットのリアルタイムな動向と直結させているからです。

 

多くの買取店が、万暦五彩の「賑やかすぎる絵付け」や「僅かなガタつき」を見て「民国期の写しではないか」と慎重になりすぎる場面でも、私は細部の「物性」を確認します。例えば、下絵の呉須(コバルト顔料)。明代の呉須は不純物として鉄分を多く含んでおり、焼成過程で釉薬のガラス層の中で不規則に拡散し、表面に「鉄錆痕」となって沈殿します。この鉄分が放つ鈍い金属光沢は、精製された現代の顔料では絶対に出せません。

 

この「不整合な拡散」という本物の証拠を特定できたとき、私は迷わず世界基準の最高値を提示します。それが、他社には真似できない「えびす屋の強み」です。

 

■3. 地域に眠る「地層としてのコレクション」の網羅

 

杉並区の荻窪周辺から、世田谷区、中野区、渋谷区、目黒区、大田区、さらに武蔵野の境界を越えて三鷹市、狛江市、調布市へ。このエリア一帯は、戦前から戦後の蒐集ブームにおいて、最高純度の中国陶磁器や 端渓硯 などの書道具が流入した物理的な集積地です。

 

蔵の奥に眠る一点の万暦五彩は、その家の歴史という地層の中に埋もれています。私は、その地層を掘り起こすように鑑定を行います。一見して価値が分からない、あるいは「派手すぎて偽物に見える」と放置されていた品が、実は明代官窯の残照を伝える逸品であることは珍しくありません。

 

えびす屋は、世田谷区、杉並区周辺ならびに、中野、渋谷、目黒、大田、三鷹、狛江、調布といったエリア全般に強いネットワークを持っています。「その辺りならえびす屋に任せておけば間違いない」と仰っていただけるのは、私たちが地域の歴史と、蔵の中に眠る物質の価値を誰よりも正確に解読してきた自負があるからです。

 

■4. 実績事例:万暦五彩龍文盤の再評価

 

以前、大田区の古い邸宅で査定した際、他社で「色彩が鮮やかすぎる」として数十万円の提示だった万暦五彩の盤がありました。私は、高台(底の部分)の「砂付」と、釉薬の収縮によって生じる微細な「ピンホール」の密度を詳細に分析しました。

 

当時の官窯でさえ、万暦期のものは焼成技術の限界から、微細な歪みや黒点(鉄分)が生じます。しかし、その「不完全さ」こそが、当時の物質的環境を証明する最大の手がかりとなります。結果として、私はその一点に数百万円の評価を下し、買取させていただきました。これが、情緒ではなく「物理的証拠」に基づく鑑定の結果です。

 

価値の分からない古い中国美術や 書道具(墨・紙・拓本) を不用品として葬ってしまう前に、一度だけ鑑定の場に出してください。繊維や結晶、釉薬の界面が秘めた情報を解読し、現時点での正確な値を算出します。品物に関する詳細は 東京国立博物館 の資料なども適宜引用し、客観的な裏付けをもって査定いたします。

 

著者プロフィール:田附 時文(たづけ ときふみ)
えびす屋 鑑定顧問 / 美術品査定士

三十六歳の現在、父の代より四十年にわたる鑑定の現場こそが私の学び舎となっている。幼少期より父の傍らで数多の中国美術や書道具に触れ、物質が放つ固有の質感を網膜に焼き付けてきた。現在はえびす屋にて、品物が内包する物性を技術的な知見に基づき、信頼ある価格へと翻訳する役割を担っている。杉並(荻窪)を拠点に、世田谷、中野、渋谷、目黒、大田、三鷹、調布、狛江といった周辺エリア全般を自ら巡り、お客様の大切な品物が辿ってきた物理的な履歴を正確に解読する作業を、日々実直に完遂している。

NEWS